517起こりうること起こりえないこと

  一連の自動化の仕事を通して、起こりうるトラブル、起こりえないトラブルについて自動組立の世界的権威である牧野先生の著書の中に記述があります。一部を抜粋して紹介します。併せて私自身、過去に経験した事例を紹介します。

 皆さんはお気付きになっているであろうか。ビールの中びんや小びんがだんだん背が低く、太くなって、ずんぐりとした形になってきていることに、一時あったスマートな小びんはいつの間にか姿を消してしまった。‥‥何故?

 これは製造工程中におけるびんの倒れを防ぐためである。ビールは中びんの場合で毎分600本(当時)というような高速でびん詰めされ、これがコンベアの上を流れてくる。流れるように運ばれてくる。この時に1本でも倒れると大変である。見る間にびんが将棋倒しになってしまい、これを直すのに作業者が天手古舞いする。折角自動になっているびん詰め工程で、これは泣き所になっていたのである。

 倒れないようにするには?びんを太くすれば良い。これで倒れる確率がゼロにはならないにしても、ずっと小さくなる。もし、倒れるという現象が1万回にたった1回の確率で起こるとしたら、これはどのくらいの頻度になるであろうか。これを計算すると、16.7分に1回、つまり1時間に4回である。これはその工程を管理している人達にとっては、耐えられないほどの多い頻度である。かりに10万回に1回の確率としても、まだ多すぎる。だから、問題は確率ではない。確率がどんなに小さくても、ゼロでないならば、つまり、起こりうるならば、それはやはり起こるのである。それに対しては対策を立てておかなければならない。

 起こりうることは起こる。それならば起こりえないことはどうか。これもまた起こるのである。機械の上にスパナを置き忘れる。誰に聞いてもそんなことは起こりえないと答えるだろう。しかし、これはしばしば起こる。落雷のために停電する。これも起こる。低い土地にある工場では大雨のために浸水するかも知れない。機械を調整している最中に、誰か他の人が電源のスイッチを入れてしまうことがある。

 こうした異常事態に対する対策を立てることはまことに大変である。異常事態は無限にあるから、頭がいくつあっても足りない。~中略~ しかし、少なくとも、ちょっと考えれば分かりそうな「起こりうること」に対しては、きちんとした手段をとっておかなければならないのである。」

 以上、記載内容に対して思い当たる事例を下記に記載します。

 学生時代に自動車部に所属していました。初めて購入した車は10年落ちの中古車で、かなりガタが来ているものでした。早速、先輩と林道に走りに行きました。林道での走行は初心者でした。部の中でも最も腕利きの先輩がこの中古車を使ってドライビング方法を教えてくれることになり、自分も含めた新人が助手席と後部座席に乗車しました。先輩のドライビングが始まりました。走り始めて2つ目の左カーブを曲がっているとき、車体が大きくロールして転倒仰向けになってしまいました。4人全員がシートベルトしていたおかげで、誰も怪我はしませんでしたが、車の屋根は大きくへこみ、フロントガラスも割れてしまいました。それ以降、修理を終えた車に、脚回りの強化(ラリー仕様)、とロールバーの搭載など改造を施しました。

 同じく学生時代、研究室のメンバーの一人が、工作室でフライス加工をしていた時のことです。エンドミルの回転数はさほど高いものではありませんでしたが、送り量を間違えて加工したため、刃が複数ついているエンドミルが粉々に弾け散りました。粉々になった刃物は、工作室の壁のいたるところに突き刺さりました。幸い、加工していた本人と近くで作業を見ていた私には怪我がありませんでしたが、以降、工作機による加工作業は学内にある試作工場へ依頼するようにしました。

 会社に入って間もないころ、開発中の6自由度多関節ロボットのエンコーダーの調整を行っていました。当時はまだ、モーター1台ずつにロータリーエンコーダーを取り付けて、アンプで出力調整をする必要がありました。作業が終わり、制御装置からサーボオンした瞬間にロボット自身が暴走し、ロボット自身の関節に衝突し壊れてしまいました。原因はロボット機構と制御装置をつなぐケーブルの内、エンコーダーなど信号用のケーブルが接続されておらず、パワー系のみが接続されていたためです。以降、信号ケーブルが外れていると機構が動かないように、最優先でハード、ソフトの対策が行われました。

 以上の経験は怪我にもつながる重要案件です。安全に対しては起こりえること、起こりえないことを今一度考え、事前に手段を講じる必要があると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

ものづくりの普遍のテーマに取り組んできた生産技術者の備忘録です。 スマート工場に向けた自動化、IOT、AIの活用について記載しています。 ご相談は下記のシマムラ技術士事務所へ。 It describes Automation and IoT/AI for smart factories. For consultation, please contact the following office.

0コメント

  • 1000 / 1000